基本的なカウンセリングの流れをご紹介します。マンションタイプの家庭的なお部屋で皆様をお迎えいたします。ご予約した時間にチャイムを押してください。
初回面接
初回面接では、今回来談することになった経緯、現在のお悩み、カウンセリングへの期待などについてじっくりと聞かせていただきます。最大90分の時間をとります。お話を聞いたうえで心理的支援が可能と判断された場合には、カウンセリングの目標を協働的に話し合って定め、2回目以降のカウンセリングを継続することになります。初回面接だけで一定の問題解決に至った場合や、2回目以降お引き受けすることができないと判断された場合には今回で終了となります。なお、初回面接の冒頭の時間(10分~20分程度)を使って、各種のインフォームド・コンセントが行われます。来談後すぐにお話を聞くことができず申し訳ありませんが、ご了承ください。こちらにはインフォームド・コンセントの指針が、こちらには初回面接のときに説明される事項の一部としてプライバシー・ポリシーが示されていますので、カウンセリングを申し込まれる前に必ずお読みください。
2回目以降のカウンセリング
2回目以降のカウンセリングでは、初回面接で話し合われた目標の実現に向けて、継続的なセッションが持たれます。無理のない回復と問題の解決を目指して、カウンセリングは一人ひとりの相談者に適した方法で行われます。継続カウンセリングは50分のセッションを毎週1回の頻度で、当初の目標がある程度実現されるまで継続することを基本とします。しかし、頻度と期間については、相談者の様々なご事情や状況について考慮しながら、そのつど話し合いのうえで決めることになります。
カウンセリングの終結
こうなりたいと考えていた自分に近づいたとき、初回面接のときに抱えていた問題がある程度解決されるに至ったとき、状況はあまり変わらないけれども楽に生きられるようになったとき、カウンセリングなしに生きていける自信がわいてきたときなど、カウンセリングの終結を考えるべきときが必ずやってくるものです。カウンセリングの終結は、相談者の方から「そろそろやめても大丈夫なので」と申し出ることもあれば、セラピスト・カウンセラーの方から「もうカウンセリングに通わなくても大丈夫のように思いますよ」と提案することもあります。そして、二人の話し合いによってカウンセリングの終結が決まります。ただ、終結を決めたその日を最後にしてカウンセリングが終わることは稀です。多くは、それから何度かお会いしてお別れとなります。というのは、お別れのための心の準備をするためと言ってもよいと思います。
フォローアップ
ご希望があれば、終結してから数か月後にフォローアップ面接を行うことも可能です。フォローアップはとても大切です。特にカウンセリングによって何らかの危機から立ち直って回復した相談者の方は、カウンセリングを離れてからもさらに回復が進むことがあり、その後の回復と成長について話し合うことには大きな意味があります。フォローアップの後は完全にカウンセリングから離れるのもよいでしょうし、毎年一回来談して、年に一度のフォローアップをずっと継続するのもよいと思います。いずれにせよ、フォローアップの実施も話し合いのうえで決めることになりますので、ご予約が必要です。
カール・ロジャーズの7段階のセラピー・プロセス
Ⅰ はじめに
このページでは、トポス心理療法オフィスでカウンセリングを受けることをお考えの相談者の皆様のために、初回面接と2回目以降の面接の流れについて、つまりカウンセリングのプロセスについて簡単に説明しました。ここからは、少し専門的なお話になります。セラピーを受けることによってパーソナリティがどのように変化していくのか、カウンセリングのプロセスに絡めながら解説していきます。興味のある方はどうぞ読みください。
セラピーのプロセス理論にはいろいろなものがあります。相談者の皆様にとって一番興味があるのは、おそらく、セラピーによって自分がどのように変化していくのかということであると思います。プロセスの理論は、初期、中期、終結期に分けて、クライエントとセラピストの関係性の変化などについて述べたものが一般的であると思います。ここでは、セラピーによってクライエントのパーソナリティや主観的体験がどのように変化していくのか、来談者中心療法で有名なカール・ロジャーズが詳しく述べていますから、彼の理論モデルについて紹介したいと思います。
紹介するロジャーズの論文は、主に1958年に発表された「サイコセラピィの過程概念」と、1960年に発表された「サイコセラピィにおけるプロセスの変化を測定するスケールの発展」です。前者の記述はかなり羅列的なもので、体系的に論じられているとは言えません。しかし、セラピーのプロセスにおけるクライエントの変化を、その体験に近いところでモデル化しているので、いま読んでも非常に説得力があります。ロジャーズと言えば、大学の臨床心理学系の講義では、セラピストの態度条件について書かれた論文については必ずと言ってよいくらい教えられるはずです。一致(純粋性)、無条件の肯定的関心(受容)、共感的理解といったセラピストの態度条件について書かれた重要論文のことです。それと比較してこれらの論文に書かれていることは、あまり教えられていないような気がします。カウンセリング心理学にとって、とても大切な論文なのですが。それから後者は、前者のモデルを洗練させて、評定尺度として完成させたものです。前者にあった興味深い部分が少し抜け落ちてしまった感がありますが、非常に分かりやすい記述になっています。
この記事の構成です。まず「ロジャーズによるセラピーのプロセス理論」と題して、パーソナリティ変化の第1段階から第7段階まで記述します。これは当該論文からの抜粋です。さらに、洗練された尺度に関する論文を紹介して、セラピーによるパーソナリティ変化のプロセスの全貌を明らかにするつもりです。
もくじ
*はじめに
*ロジャーズによるセラピーのプロセス理論
*サイコセラピーのプロセス・スケール
*おわりに
*引用・参考文献
この記事は、心理カウンセラーを志す大学院生や初心者の心理士、それからカウンセリングを受けてみたいとお考えの相談者の皆様を想定して書かれたものです。難易度としては中級くらいで、少し難しいかもしれません。相談者の方は、セラピーによってどのように変化していくのか、どのように変化したいのか、あなたが未来予想図を描くための参考資料としてお使いください。
Ⅱ ロジャーズによるセラピーのプロセス理論
ロジャーズは、来談者中心療法に導入されたクライエントの変化を、いくつかの視点から7段階に分けて論じています。後ほど解説しますから、まずは目を通してください。読み方のコツですが、人生の途上でいきづまり、歩みを止めてしまった一人の人間を想像してください。いきづまるまでは生命の大河が淀みなく流れていましたが、現実を潤していたその水は枯れてしまいました。クライエントはその時点でセラピーの扉をたたきます。セラピーのプロセスで、その人は回復していきます。ふたたび生命の泉がわきあがり、流れを取り戻した川は、現実という大地を潤していくことになります。
パーソナリティの変化を促進する基本的な条件は、クライエントが、あるがままにセラピストから受け入れられていると感じていることです。一致または純粋性、無条件の肯定的関心または受容、共感的理解というセラピスト側の態度条件が当然の前提とされています。また、このモデルの基本的な特徴は、固定性から変易性へ、固定的構造から流動性へ、停滞から過程へ、固定の極から動きの極へと向かう変化にあります。変化のプロセスでクライエントのパーソナリティが到達するのは、「流れの統合体」「動きの統合体」と描写されるような動的存在です。「十分に機能する人間」とも呼ばれています。
では、じっくりとお読みください。変化のプロセスが7段階に区分されています。第1段階はセラピーにやってくるときのクライエントの状態なのですが、クライエントはセラピストの受容的な態度に触れることによって第2段階に移行していきます。
1.第1段階
*自分のことを話したくないという気持ちがある。
*話しはたんに自分以外のことに関してだけである。
*自分の感情や個人的意味づけには気づいておらず、自分のものになっていない。
*個人的構成概念は極端に堅い。
*親密な関係、容易にコミュニケートできる関係を危険なものとして感じてしまう。
*何が問題であるのか認識していないし、知覚もしていない。
*変わろうとする願望を持っていない。
*内的なコミュニケーションに障害がある。
2.第2段階
*表現が自分以外の話題に流れ始める。
*問題は自分の外部にあると知覚される。
*問題に対して個人としての責任を感じていない。
*感情を自分のものではないものとして述べたり、過去の客体として述べる。
*感情が表出されるかもしれないが、感情として認識されなかったり、自分の感情としては認められなかったりする。
*体験の仕方が、過去の構造に束縛されている。
*個人的構成概念は堅く、構成概念であるとは認識されず、事実であると考えられている。
*個人的な意味づけと感情の分化がとても限定されていて、大雑把である。
*矛盾を表現することがあるが、それが矛盾しているとはほとんど感じていない。
3.第3段階
*客体としての自己に関する表現が、より自由に流動するようになる。
*自己に関連した経験を、客体として表現することが起こる。
*自己について、他人の中にあって周囲から照らし返されてきた客体として表現することがある。
*いま現在のことではないという感じや、個人的意味づけの表現や説明が多くなってくる。
*感情の受容は極めてわずかである。感情の大部分は、何か恥ずかしい、悪い、普通ではないものとして、あるいはどのみち受容しがたいものとして表わされる。
*感情を言い表して、それを感情として認めるときがある。
*体験の仕方は、過去にあったものとして、あるいは自己から隔たったものとして述べられる。
*個人的構成概念は頑なであるが、外面的な事実としてではなく、構成概念として認められることもある。
*前の段階よりも感情と意味づけの分化がおおざっぱではなくなり、わずかにより鋭くなってくる。
*経験の中の矛盾を認める。
*個人的な選択が、しばしば役に立たないように見られる。
4.第4段階
*クライエントは、非現在的な、より強い感情を述べる。
*感情を、現在ある客体として述べる。
*感情が現在のものとして表現されたり、クライエントの意欲を突き破るようなかたちで出てくる。
*瞬間的現在における感情を体験する傾向があり、そのようにして体験することに不信と恐れを抱いている。
*感情の開放的な受容はほとんどないが、それでもいくらか受容が示される。
*体験の仕方が過去の構造に縛られることがより少なくなり、より隔たりがなくなり、ときにはほとんど遅延することなく起こることがある。
*経験を解釈する仕方が解放される。個人的構成概念について何かが見出される。それを構成概念としてはっきり認めて、その妥当性を疑うことが始まる。
*感情、構成概念、個人的な意味づけの分化が増大し、象徴化の正確さを求める傾向がそれとともに起こる。
*自己と経験との間の矛盾と不一致についての関心を実感するようになる。
*問題について自分の責任の感じが起こる。しかし、その感じは動揺する。
*親密な関係はまだ危険に思われるのだが、クライエントは感情のレベルでわずかながら人との関係を持とうと、みずから危険を冒してやってみる。
5.第5段階
*感情は現在のものとして自由に表現される。
*感情を十分に体験するということに非常に近づいている。クライエントが感情を十分にかつ瞬時的に体験するときに感じる恐れや不信の念にもかかわらず、感情が泡立てて出てきたり、滲み出たりする。
*感情を体験することの中に、直接的照合体が入っているという実感が起こり始める傾向がある。
*泡立ち出てくるこの感情に対しては、驚きと恐れとがあって、喜びはめったにない。
*自己感情が自分のものだという気持ちと、その感じでありたい、本当の自分でいたいという願望が増してくる。
*経験の仕方が解放されて、もはや隔たりがなくなり、しばしばほとんど遅滞なく起こる。
*経験を解釈する仕方が非常に解放される。個人的構成概念を構成概念としてみる多くの新鮮な発見があり、それに対する批判的な検討と疑問が起こる。
*感情と意味づけとの分化が正確になっていく強い顕著な傾向がある。
*経験の中の矛盾と不一致にますますはっきり直面するようになる。
*直面している問題に対する自分の責任を受け入れるようになり、また、自分の責任がどういうものであるのかという関心も強くなる。自分の中でますます自由な対話が起こり、内面的コミュニケーションが改善されて、その障害が減少する。
6.第6段階
*以前には固着していて、過程となる性質を禁じられていた感情が、いまでは瞬時的に体験される。
*感情がその十分な結末まで流れ出す。
*現在の感情が瞬時性と豊かさをもって直接に体験される。
*この体験の仕方の瞬時性と、その内容をなす感情とが受容される。これは何かあるがままのものであって、否定したり恐れたり、あるいはそれと戦わなければならないようなものではない。
*経験について感じるというのではなく、その中で主観的に生活しているという質のものがある。
*客体としての自己が消失する傾向がある。
*この段階では、体験の仕方が真に過程という性質をもっている。
*この過程段階のもうひとつの特徴は、それにともなって起こる生理学的な解放である。
*この段階では、内面的コミュニケーションが自由で、比較的妨げられていない。
*経験と知覚との不一致は、それが一致に達して消失する際に生き生きと体験される。
*この体験の瞬間に、それに関連のある個人的構成概念が解消して、クライエントは以前には安定していた枠組から解放されるのを感じる。
*十分に体験するその瞬間は、明瞭にして明白な照合体となる。
*体験過程の分化が鮮明になり、基本的なものとなる。
*この段階では、もう内部的にも外部的にも、もはや問題はない。クライエントは主観的に、クライエントは自分の問題のひとつの位相を生きている。それは客体ではない。
7.第7段階
*セラピーの関係の中でもまたその外でも、新しい感情が詳細な点の瞬時性と豊富さをもって体験される。
*このような感情を体験することが明瞭な照合体として利用される。
*これらの変化しつつある感情を、受容的に所有するという感覚が成長して継続してくる。また自分自身の過程に対する基本的な信頼がある。
*体験の仕方は、構造に縛られるという側面をほとんど完全になくして、過程の体験になる。すなわち、ある状況を過去のものとしてではなく、その新しさをもって体験し、解釈する。
*自己は次第に、単純に体験過程の主観的、再帰的自覚になる。自己は知覚される客体であることがますます稀になり、過程の中で自信を持って感じられる何ものかであることがますます多くなる。
*個人的構成概念は、さらに今後の経験に照らして確認するために、暫定的に再形成されるが、しかしそれすら固執しているのではない。
*感情と象徴化がよく釣り合っており、そして新しい感情に対する新鮮な言葉が見出され、内面的コミュニケーションが明瞭になる。
*新しい在り方を効果的に選択するという体験が起こる。
以上です。このような変化のプロセスは、クライエントが十分に受け入れられていると経験するときに動き出すものとされているので、クライエント中心療法に固有の変化モデルであると考えられます。情動的な側面ではなく、認知的な側面に重きを置くタイプのセラピーは、これとは違った変化のプロセスが起こるかもしれないとも説明されています。また、第1段階にある人が最終的な第7段階に至ることは稀で、あったとしても長期にわたるセラピーが必要かもしれないと示唆されています。
Ⅲ サイコセラピーのプロセス・スケール
ロジャーズは、サイコセラピーによってパーソナリティの変化が起こるプロセスを7段階に区分して定式化したわけですが、時間の長さの視点から言うと、それは中期的・長期的な変化に関するものです。しかし、クライエントは、一回のセッションの中でも時々刻々と変化します。そのつど、そのつど、変化するのです。この短期的な変化、あるいは超短期的な変化をとらえるために開発されたのが、プロセス・スケールということになります。改良された日本語版には、三宅ら(2007)や、久保田ら(2017)などがあります。現代のプロセス・スケールは、ロジャーズと言うよりもフォーカシングのジェンドリンの体験過程を測定するものと言った方がよいのかもしれません。ただ、ここでは原点のロジャーズのスケールを紹介します。
セッションの中で、いまここで絶え間なく変化するクライエントを捉えるために、先ほどの7段階のプロセスが応用されました。ロジャーズはストランズと呼んでいますが、分析の視点としての要素ないし因子は、次の七つになっています。すなわち、感情と個人的意味づけ(feeling and personal meaning)、体験の仕方(manner of experiencing)、不一致(incongruence)、自己の伝達(communication of self)、体験の解釈(construing of experience)、問題に関する関係(relationship to problems)、関係の仕方(manner of relating)です。この七つの要素が、低(1~2段階)、中(3~5段階)、高(6~7段階)というプロセスの諸段階に位置づけられるわけです。それぞれの要素が、セッションの中でそのつど深くなったり浅くなったり、時々刻々と変化するのです。
それぞれのストランズの意味です。①「感情と個人的意味づけ」とは、情動的に彩られた経験と、その人にとっての意義のことです。②「体験の仕方」とは、現象の場において、主観的な体験過程の中にあったり、そこから遠ざかっていたりする度合いのことです。③「不一致」とは、いまここで体験しつつあることと、意識またはコミュニケーションのなかに表現されたもの間にある矛盾やズレのことです。④「自己の伝達」とは、受容的な雰囲気の中で自己を喜んで伝達しようとしているのか、あるいはそれができる度合いや、やり方を意味しています。⑤「体験の解釈」とは、自己の体験を解釈する仕方であり、プロセスの初期段階では個人的構成概念によって大きく左右されます。⑥「問題に関する関係」とは、問題のある自己の要素に対する、その人の関係のことです。⑦「関係の仕方」とは、セラピストやその他の人たちとの関係性のことを意味します。
では、ストランズごとにプロセスにおける段階的な特徴を見ていきましょう。プロセスの段階は、低(1~2段階)→中(3~5段階)→高(6~7段階)に区分されます。
1.「感情と個人的意味づけ」
低(認められない。表出されない)→ 中(自分のものであるという感じが増大する。表出が増大する)→ 高(流れの中に生きる。十分に体験される)
2.「体験の仕方」
低(体験過程から遠く離れている。意識されない)→ 中(遠隔感が減少する。意識が増大する)→ 高(体験過程の中に生きる。重要な照合体として用いられる)
3.「不一致」
低(認識されない)→ 中(認識が増大する)→ 高(直接的体験過程が増大する。一時的にだけある)
4.「自己の伝達」
低(欠けている)→ 中(自己の伝達が増大する) → 高(豊かな自己意識が望むままに伝達される)
5.「体験の解釈」
低(構成概念が堅い。構成概念が事実として見られる)→ 中(堅さが減少する。自分自身が作るものという認識が増大する)→ 高(一時的な構成概念。意味づけが柔軟で、体験過程に照合して検討される)
6.「問題に関する関係」
低(認識されない。変えようとする要求がない)→ 中(責任を取ることが増大する。変化することを怖がる)→ 高(問題を外部的対象として見なくなる。問題のある側面の中に生きている)
7.「関係の仕方」
低(親密な関係は危険なものとして避けられる)→ 中(危険だという感じが減少する)→ 高(瞬時的体験過程に基づいて開放的に、自由に関係を持つ)
いかがでしょうか。とてもシンプルにまとめられていると思います。このストランズの視点から変化プロセスの7段階を読み直してみると、さらに理解が進むはずです。ぜひ、もう一度読み返してください。ロジャーズがこのモデルを打ち出したのは、1950年代の後半でした。当時はまだ大きなオープンリール式のテープレコーダーしかなく、コンパクトなカセットテープの開発はもう少し先まで待たねばなりませんでした。いまでは小型のデジタルICレコーダーがあります。彼はこのアナログの原始的な機器を使って、ということは、当時としては最先端のテクノロジーを駆使して、セラピーのプロセスを実証的な姿勢で検証しようとしていたのです。そこから生まれたのが、このプロセスモデルなのでした。根拠のない単なる思弁ではありません。記録されたデータを分析して客観的に結論を導き出そうとする研究態度は、現代のカウンセリング研究の先駆けとなるものだったのです。
Ⅳ おわりに
カール・ロジャーズのパーソナリティ変化のプロセス概念について紹介しました。7段階のプロセスは、中期・長期的な変化がその縦糸、短期的なセッション内の変化が横糸として理解されるでしょう。これまでに蓄積された効果研究から、セラピーの最初期段階で高レベルのストランズが出現するクライエントは、クライエント中心療法によって恩恵を得やすいこと、それが奏功する可能性が大きいことが分かっています。私見ですが、そのようなクライエントは来談者中心療法にかぎらず、対話式の精神療法全般に適応があると言えるのかもしれません。
とはいえ、これはあくまでセラピストの視点です。相談者の視点から言えば、この7段階のプロセスを知ることによって、一体どんな役に立つのでしょうか?ひとつは、このような視点をもちながらクライエントの話に耳を傾けているセラピストがいることを知っていただけることです。もうひとつは、このモデルに照らして、自分はいま回復プロセスのどの地点にいるのか理解できることです。ただ、ロジャーズのモデルも西洋的な思想の範疇にありますから、日本人にぴったりあてはめることができるのか慎重な態度が必要でしょう。
彼自身、最終段階のレベル7に至るクライエントは稀であると述べています。しかし、右肩上がり末広がりのゴールをもつこのようなモデルは、東洋的な価値観には馴染まないような気もします。相談者の皆様は、くれぐれも参考程度にとどめるのがよいと思います。セラピーのプロセスとゴールは一人ひとり異なっているわけですし、大切なのは一般的なモデルに従ってそれに自分を合わせることではなくて、自分自身の個別的なモデルを作っていくことであると思うのです。そして、その作業は、あなたとセラピストの協働作業として遂行されることになるのです。
引用・参考文献
カール・ロジャーズ(1957)パーソナリティ変化の必要にして十分な条件 第6章 ロージャズ全集第4巻 岩崎学術出版社
カール・ロジャーズ(1958)サイコセラピィの過程概念 第7章 ロージャズ全集第4巻 岩崎学術出版社
カール・ロジャーズら(1958)サイコセラピィのプロセス・スケール 第8章 ロージャズ全集第4巻 岩崎学術出版社
カール・ロジャーズら(1960)サイコセラピィにおけるプロセスの変化を測定するスケールの発展 第9章 ロージャズ全集第4巻 岩崎学術出版社
三宅麻希・池見陽・田村隆一(2007):5 段階体験過程スケール評定マニュアル作成の試み 『人間性心理学研究』25(2):193‒205.
久保田恵実・池見陽(2017)体験過程様式の推定に関する研究 : EXPチェックリストII ver.1.1 作成の試み. サイコロジスト:関西大学臨床心理専門職大学院紀要 第7号
57-66.